新鮮な魚介類を使った料理は日本の食卓には欠かせませんが、その中で注意すべき存在が「アニサキス」という寄生虫です。
ここ数年、メディアでも取り上げられる機会が増え、アニサキスによる健康被害は『アニサキス症』と呼ばれ、激しい腹痛を引き起こすことで話題になっています。
魚介の生食文化が根付いている日本では、誰でもアニサキスによるトラブルに遭遇する可能性があります。
本記事では、アニサキスの基本や症状、予防策などをわかりやすく解説します。
アニサキスとは?

基本的な特徴
アニサキスは、魚介類に寄生する線虫(せんちゅう)の一種であり、主にサバ、アジ、イカ、サケなどさまざまな魚介の内臓や筋肉中に生息しています。
長さは数センチほどの糸状で、白色または半透明をしていることが多いです。
魚が生きているときは内臓に寄生していることが多いですが、魚が死んだ後、時間の経過とともに筋肉へ移動してくる場合があり、刺身や生食で口に入ると、人間の胃や腸に入り込んで食中毒症状を引き起こすことがあります。
なぜ食中毒を起こすのか
人間の体はアニサキスにとって生育環境ではないため、体内に入ったアニサキスは数日ほどで死滅しますが、その過程で胃や腸の粘膜に侵入し、強い炎症を引き起こします。
これにより、激しい痛みや嘔吐などの症状が現れることがあります。
アニサキス症と経過

主な症状
アニサキス症を発症した場合、次のような症状が現れることがあります。
- 激しい腹痛:胃部や腹部に強い痛みが走る。
- 嘔吐・吐き気:胃に付着した場合、吐き気や嘔吐を伴うことが多い。
- 下痢・腹部不快感:腸に侵入した場合、下痢や腸閉塞様の症状を起こすこともある。
これらの症状は、摂食後数時間~数日で発症する場合が一般的です。症状が非常に強く、急性虫垂炎や胃潰瘍と間違えられることもあります。
経過と治療
アニサキスはヒトの体内で生き続けることはできないため、数日~1週間程度で死滅し、自然に症状が治まるケースが多いです。
しかし、痛みが激しい場合や腸閉塞のリスクがある場合は、内視鏡による摘出が行われることがあります。
内視鏡検査でアニサキスを発見し、鉗子(かんし)でつまみ出すと即座に痛みが軽減することがほとんどです。重症化している場合には入院治療が必要となるケースもあります。
アニサキス症の予防策

加熱と冷凍の効果
アニサキスは熱に弱く、中心温度60℃で1分以上加熱する、あるいは-20℃以下で24時間以上冷凍することで死滅するとされています。
市販の冷凍魚介類や缶詰などは、加工工程で十分な加熱や冷凍処理が行われるためアニサキスの心配はほとんどありません。
一方、自宅で生魚を調理する場合、刺身や寿司にする前に一度冷凍するか、あるいは加熱料理(焼き魚や煮魚など)にすることでリスクを低減できます。
目視検査と除去
アニサキスは糸のように細く白い見た目をしていることが多いため、魚をさばく段階で確認し、取り除くことが重要です。
とくに内臓や腹膜に付着している場合は比較的見つけやすいですが、筋肉中に移動している個体もあるため、刺身用のブロックを切る際にも注意深く目視する必要があります。
購入・調理時のポイント
- 鮮度が良いものを選ぶ:信頼できる販売店や漁港直送など、鮮度が高いものを選ぶと、筋肉への移行が少ない。
- 内臓を早めに除去:釣った魚や市場で買った魚は、なるべく早く内臓を取り除き、腐敗やアニサキスの移動を抑える。
- 加熱や冷凍する:生食を避けるのが確実だが、生で食べる場合も一度冷凍するなどの処理を検討。
アニサキスによる食中毒の実例と最近の動向

近年の発生状況
近年、メディアでもしばしば取り上げられるように、アニサキスによる食中毒の件数は増加傾向にあるといわれています。
これは生魚を食べる機会が多い日本ならではの問題であり、釣りブームや海外からの観光客にも影響があるかもしれません。
一方で、冷凍技術の進歩や検査機器の導入により、食品メーカーや大手飲食店チェーンなどでは対策が進んでおり、大規模な食中毒はあまり起こっていないものの、家庭や小規模店舗での発生が散見される状況です。
事例と対策例
事例 | 対策 |
釣ったばかりの魚をすぐ刺身に | – 内臓を早めに除去し、必要に応じて冷凍処理または加熱調理 |
生魚を扱う居酒屋や小料理店など | – 魚介を仕入れる際に産地と鮮度を厳しくチェック- さばく前後のまな板や包丁はこまめに洗浄・消毒 |
家庭で新鮮な魚を調理したい | – 目視でアニサキスを確認し、発見したらすぐ除去- 不安な場合は加熱料理(煮る・焼く)にする |
アニサキスによる食中毒を防ぐ正しい知識と習慣

アニサキスによる食中毒は、日本人の食文化である刺身や寿司などの生魚に密接に関わる問題です。
以下のポイントを意識するだけでも、トラブルを大幅に減らすことができます。
- 加熱・冷凍の徹底:アニサキスは中心温度60℃以上で1分以上、または-20℃以下で24時間以上冷凍することで死滅
- 目視でのチェック:自宅で魚をさばく際、白い糸状の寄生虫がいないか注意深く確認
- 鮮度管理と早期内臓除去:釣ってすぐ処理する、または鮮度の良い魚を購入し、内臓を放置しない
痛み止めや胃薬では対処が難しいほどの激痛に見舞われる可能性もあるアニサキス症ですが、適切な知識と対応で防ぐことは十分可能です。
安全かつ美味しい魚料理を楽しむためにも、日ごろからアニサキスの存在を念頭に置き、魚介の取り扱いに気を配りましょう。