飲食店や給食施設など、食事を提供する現場では、衛生管理が非常に重要です。食材の取り扱いや調理環境のちょっとしたミスが、思わぬ食中毒事故につながることもあります。
特に、多くの人に食事を提供する施設では、衛生管理の徹底が店舗や施設の信頼を左右する大きな要素となります。
本記事では、厨房の衛生管理を適切に行うための基本的なポイントから、具体的な対策や最新の衛生管理の動向まで、わかりやすく解説します。食の安全を守るために、日々の管理を見直してみましょう。
厨房における衛生管理の基本

なぜ衛生管理が重要なのか
厨房は、多くの食品や調理器具、人の出入りが集中する場所です。
食品自体に含まれる微生物のほか、食材同士の交差汚染(こうさおせん)や調理者の手指を介した二次汚染など、あらゆる段階で細菌やウイルスが食品に付着するリスクがあります。
特に近年、飲食店や給食施設で発生する食中毒事故がメディアやSNSを通じて急速に拡散するケースも珍しくありません。
経営だけでなく、顧客や利用者の安全を守るためにも、適切な衛生管理が欠かせないのです。
衛生管理の三原則「つけない・増やさない・やっつける」
厨房の衛生管理では、以下の三原則が基本とされます。
- つけない
- 食材や調理器具、手指などへの菌やウイルスの付着を最小限に抑える
- 生食材と加熱済みの食品を分ける、こまめな手洗いを徹底するなど
- 増やさない
- 菌が増殖しやすい温度帯(一般的に5~60℃)で食品を放置しない
- 低温保存や冷凍保存など適切な温度管理を実践
- やっつける
- 十分な加熱(中心温度75℃以上を目安)や塩素系漂白剤などの消毒で菌を死滅させる
厨房の衛生管理の具体的対策

1. 手洗い・手指衛生
手指を介した二次汚染は非常に多いリスク要因です。特に食品を取り扱う際には、手洗いが最も基本的かつ効果的な予防策といえます。
- 石けんと流水で30秒以上しっかり洗う
- 爪の間や指の股、手首まで丁寧にこする
- 使い回しのタオルは避け、ペーパータオルやハンドドライヤーを使用
2. 食材の保存・温度管理
冷蔵庫・冷凍庫の庫内温度を定期的にモニタリングし、適切な温度を保つことが重要です。
- 冷蔵は5℃以下、冷凍は-18℃以下が望ましい
- 冷凍食品を解凍する際は、冷蔵庫内でゆっくり解凍するか、流水解凍を活用
- 賞味期限・消費期限をよく確認し、先入れ先出し(古いものから使う)を徹底
3. 加熱調理の徹底
細菌やウイルスの多くは中心温度75℃以上で1分以上の加熱が目安とされています。
特に肉、魚、卵など食中毒リスクが高い食材は、十分に火を通しましょう。
食材・調理物 | 推奨中心温度 | 注意点 |
鶏肉・豚肉 | 75℃以上 | 切り口を確認し、肉汁が透明になるまで加熱 |
ハンバーグ | 75℃以上 | 中心部が赤くなく、血が滴らない状態を確認 |
生ガキ | 85~90℃以上 | 90秒以上の加熱が推奨(ノロウイルス対策) |
サバ・アジなど | 70℃以上 | アニサキス対策のため、加熱や冷凍を積極的に活用 |
4. 調理器具・設備の消毒・清掃
- まな板・包丁
生肉と野菜などで使い分けを行い、使用後はすぐ洗剤と熱湯消毒を行う。 - シンク・作業台
こぼれた汁や食材のかすが放置されないよう、使用後は速やかに洗浄し、定期的に塩素系漂白剤で消毒。 - 排水口や換気扇
見落としがちな場所だが、カビや油汚れが菌や害虫の温床になるため、定期的に徹底清掃。
5. 害虫・ネズミ対策
温かく湿度の高い環境である厨房は、ゴキブリやネズミが好む場所になりがちです。
食材への混入や器具への接触を防ぐため、防虫・防鼠対策は必須といえます。
- ドアや窓に防虫用フィルターを設置
- 隙間や穴を徹底的にふさぐ
- 毒エサや粘着シートなどで定期的に駆除を行う
厨房の衛生管理における最新のトピック

HACCP(ハサップ)の義務化
日本では2021年6月から、HACCPに沿った衛生管理がすべての食品事業者に義務化されました。
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)は、工程を分析して重要な管理点を連続的に監視・記録する手法で、食中毒予防の国際標準とされています。
飲食店や給食施設などでもHACCPの考え方を取り入れ、温度管理や清掃消毒の方法を明確化する動きが進んでいます。
デジタル技術を活用した管理
近年、厨房の管理にはIoT(モノのインターネット)やクラウド連携などが取り入れられ、冷蔵庫や冷凍庫の温度を自動モニタリングして異常があればスマートフォンへ通知するシステムが普及し始めています。
さらに、タブレットやPCで簡単に清掃・消毒記録を入力・共有することで、ヒューマンエラーを減らす取り組みも行われています。
厨房における衛生管理のポイント

以下の表に、厨房管理を行ううえで押さえておきたい主な項目と注意点を整理しました。
管理項目 | 具体的対策 |
手洗い・手指衛生 | – 石けんと流水で30秒以上かけて洗う- 爪の間・指の股・手首まで念入りに洗浄- 使いまわしのタオルを避けてペーパータオルやハンドドライヤーを使用 |
食材の保存・温度管理 | – 冷蔵は5℃以下、冷凍は-15℃以下を維持- 先入れ先出しを徹底- 賞味・消費期限の確認と定期的な棚卸 |
加熱調理の徹底 | – 中心温度75℃以上で1分以上- ノロウイルスやアニサキス対策として魚介類は充分加熱・冷凍 |
調理器具・設備の清掃 | – まな板・包丁・作業台など使用後すぐ洗浄- 塩素系漂白剤や熱湯消毒で菌を除去- 排水口や換気扇、エアコンフィルターの定期清掃 |
害虫・ネズミ対策 | – 防虫フィルターや隙間埋めで侵入を防止- 毒エサ・粘着シートを定期配置- ゴミ置き場の管理と生ゴミの速やかな処理 |
HACCPの導入・運用 | – 工程ごとにリスクを分析し、CCP(重要管理点)を設定- 温度記録や清掃作業の記録をデジタル化- 定期的な見直しとマニュアルの更新 |
厨房管理を徹底して安全と信頼を手に入れよう

厨房は、食を提供する現場の中でもっともリスクが集まる場所です。
生肉や魚介類、野菜など多様な食材を扱い、大勢の従業員が出入りする場所だからこそ、些細な衛生管理ミスが大きな事故につながる恐れがあります。
しかし逆にいえば、適切な手洗いや温度管理、加熱調理、調理器具の消毒など基本を徹底することで、食中毒リスクを大幅に下げることは十分可能です。
- 手洗いを徹底し、「つけない」を防ぐ
- 低温管理と早めの消費で「増やさない」
- 加熱・消毒で「やっつける」
- 最新技術でモニタリングと記録を簡略化・正確化
- HACCPの考え方を取り入れ、抜け漏れのない仕組みづくり
これらを実践することで、利用者や顧客の安全はもちろん、店舗や施設への信頼向上にもつながります。
日々の衛生管理が食の安全を守り、ひいては事業やブランドの価値を高める鍵となるのです。