食品検査や水質検査において、たびたび登場する「大腸菌群」と「大腸菌」。名前がよく似ているため混同されがちですが、実は定義や検査の意図が異なります。
大腸菌群は衛生状態を把握するための指標菌として活用される一方、大腸菌(E. coli)は多様な株が存在し、通常は腸内で共生していますが、一部の病原性株(O157など)は食中毒を引き起こす可能性があります。
そこで本記事では、大腸菌群と大腸菌の違いや検査の重要性、さらに安全確保のために押さえておきたいポイントをわかりやすくまとめました。
大腸菌群とは?

定義と特徴
大腸菌群とは、食品や水質の衛生検査で指標とされる一連の細菌グループを指します。
主に糞便由来の菌が混入しているかどうかをチェックする際に用いられ、グラム陰性の桿菌(かんきん)であり、乳糖を分解して酸やガスを生成する特性を持つものが含まれます。
これら大腸菌群の検出数が多いと、衛生面でのリスクが高まっている可能性があると判断されるのです。
- 広義の指標菌
大腸菌群は、環境中や自然界にも存在する菌種を含むため、検出されただけでは必ずしも病原性を持つとは限りません。しかし、糞便汚染の疑いが高いと示唆するうえで大切な指標となるため、水道水や食品の安全管理では必須の検査項目です。 - 糞便汚染のスクリーニングに有用
大腸菌群が見つかれば、糞便由来のほかの病原菌(サルモネラ菌や腸管出血性大腸菌など)も潜んでいるリスクがあると考えられるため、追加検査が必要になります。
大腸菌(E.coli)とは?

大腸菌の本来の姿
狭義での「大腸菌」とは、Escherichia coli(エシェリキア・コリ)という細菌種を指します。
人や動物の腸管内にふだんから共生しており、通常はそれほど危険性をもたないケースも多いです。
しかし、特定の型(株)が強い毒素を出すときは、一転して食中毒を引き起こす原因菌となります。
- 病原型
代表例は腸管出血性大腸菌(O157など)。少量の菌でも感染し、激しい腹痛や血便、合併症による腎不全リスクを伴う場合があります。 - 非病原型
腸内で栄養素分解を助けるなど、ふだんは人体に大きな害を及ぼさない株も多数存在しています。
食中毒と大腸菌
とりわけ、O157のような病原株はわずかな摂取でも感染する可能性があるため、食品業界や飲食店では非常に警戒すべき菌と位置づけられます。
こうした病原性の大腸菌が検出された場合、ただちにリコールや施設の営業停止などの措置がとられることが一般的です。
大腸菌群と大腸菌はどう違うのか—比較表

以下の表に、両者の違いを簡潔に示します。
項目 | 大腸菌群 | 大腸菌(E.coli) |
定義・範囲 | 糞便由来の可能性を示唆する広義の菌グループ。環境中にも生息する菌が含まれる。 | Escherichia属の一種。人や動物の腸内に常在し、病原性の有無が株ごとに異なる。 |
検査目的 | 衛生指標菌(スクリーニング) | 食中毒の直接原因菌かどうかの判定(病原株の特定) |
病原性 | 必ずしも病原性を持つわけではない | 毒素産生株は集団食中毒を引き起こし、重症化の可能性がある(溶血性尿毒症症候群(HUS)など。) |
検出された場合の対処 | 衛生状況を再確認し、追加の微生物検査(サルモネラやO157など)を実施する | 病原型の場合は速やかにリコールや営業停止措置が必要 |
なぜ両方の検査が必要なのか

大腸菌群:初期スクリーニングとしての役割
大腸菌群は、糞便汚染の有無を示す一次指標菌として捉えられます。
食品や水の検体から大腸菌群が検出された場合、さらなる詳しい検査(病原大腸菌やその他病原菌の確認)が行われるのが通常です。
大腸菌:病原株の有無を直接チェック
大腸菌群が見つかったからといって、すべてが病原性を持つわけではありません。
そこで、詳しい検査(遺伝子検査や生化学的検査)を通じて、その中の大腸菌が病原型なのかどうかを見極める必要があります。
実際にO157などの病原型が確認されれば、ただちに大規模な対策を実施する必要があります。
大腸菌群・大腸菌をめぐるよくある疑問

Q1:大腸菌群が検出された商品は即危険?
A1:大腸菌群はあくまで衛生指標菌なので、これだけで即「食中毒」とは限りません。
しかし、糞便汚染が疑われるため、追加検査を実施して病原菌がいないかを確認する必要があります。
Q2:大腸菌群と大腸菌は同じ?
A2:厳密には異なります。「大腸菌群」は大腸菌を含めた広いグループで、「大腸菌」はその一部です。大腸菌群の中でも病原性を示すものが「病原大腸菌」と呼ばれ、O157などの強毒性株が食中毒原因となります。
Q3:大腸菌群・大腸菌の検査で陰性なら完全に安全?
A3:陰性結果でも、他の細菌(サルモネラ、カンピロバクターなど)やウイルスによる汚染リスクは残るため、総合的な検査や衛生管理が欠かせません。
大腸菌群・大腸菌を正しく理解して食品の安全を確保しよう

「大腸菌群」と「大腸菌」は名称が似ているものの、前者は衛生状態を示す指標菌の集合体、後者は特定の菌種です。
大腸菌群が検出された場合は、病原大腸菌(O157など)が含まれていないかをさらに詳しく調べ、必要に応じてリコールや施設の改善措置を取ります。
食品や水の安全を守るためには、両方の検査結果を総合的に判断し、適切な衛生管理を行うことが重要です。
HACCP(ハサップ)の導入や定期的な検査を通じて、食中毒予防やリスク低減に取り組む姿勢が、消費者の信頼を確固たるものとするでしょう。
今後も、技術の進歩やグローバルな取引拡大によって、大腸菌群・大腸菌の検査はますますその存在感を増していくと期待されます。